山に生卵を持っていく方法

 生卵は、常温で保存が利き、あれば食事のメニューの幅が広がります。アウトドアで生卵を持っていくためのケースは市販されていますが、かつてそれを使ったところ、うまくいきませんでした。なにしろ、ザックが重いのと、休憩の度にそのザックを「ドサッ」と乱暴に下ろすのですから、そんなケースなど、あってないようなものです。そういうケースは、車で移動するオートキャンプで使用するものと考えた方がよいでしょう。

 そこで、我が山岳部の連中が、普段通り乱暴なザックの扱いをしても平気な生卵運搬法はないかと考えてみました。また、それは基本的には、お金をかけたり、特別な装置は使わないという前提です。

 まず、思いつくのが、何かをクッションにするということです。タオルにいくつかを巻きながら運ぶという手が考えられますが、どうも面倒な感じがします。それに、いいかげんに巻くと、タオルの中で卵同士がぶつかってしまうおそれがあります。発泡スチロールをちぎってクッションにすることを考えましたが、卵を運び終えた後、ゴミが出ます。発泡スチロール程度のゴミなら、重さ的に影響はないように思いますが、やはり、できるかぎりゴミは出したくありません。

 発泡スチロールをじっとながめていて、ひらめきました。この発泡スチロールと同じような感触で、しかもゴミにならないもの。それは…。

 それは、「ふ菓子」です。昔懐かしい、黒砂糖と小麦粉でんぷんだけの、無添加のお菓子。今でも一袋100円程度で売っています。これをクッションにして卵を運び、運び終えたら、ふ菓子は行動食として食べてしまえばいいのです。早速このアイデアを、箱根明神ヶ岳の山行で試してみることにしました。

 卵をふ菓子で包んでラップしました。このままタオルにくるんでも大丈夫そうでしたが、念のため、今回はそれをタッパに詰めました。万が一卵が破損した時に、水分が漏れないよう、密閉度の高いタッパを使用しました。ふ菓子で包んだ卵を5個タッパに入れ、そのまま転がしてみましたが、タッパの中で卵が動く様子がなかったので、たぶん大丈夫だと感じました。

 いよいよ山行。2ピッチで山頂のため、休憩は1回。その休憩で、わざと乱暴にザックを放り投げたら、その勢いで5メートルくらい谷底へ転がっていきました。あわてて取りに行きましたが、この程度で卵が壊れるようなら実験は失敗です。どうなったか、昼食時が楽しみです。

 そして、昼食。キムチ鍋を作り、肉、野菜をいいかげん食べた後、うどんを入れて食べ、そのあとでご飯を入れ、そこに溶き卵を入れて雑炊にするという計画です。果たして卵は……。

 無事でした。見事に5つとも無傷で、我々は溶き卵入りの雑炊を食べることができたのでした。クッションのふ菓子も、部員達の腹の中に入りました。タッパだけが残ってしまいましたが、こうした容器は濡れたものや細かいものを持ち帰る時に利用することもできます。とりあえず実験は成功で、次の山行からは卵を使った料理のメニューが可能になりました。

卵をふ菓子で包んでタッパに詰めた図。4つ詰めた中央に、残りのひとつが収まった。さらに、上にふ菓子を乗せてふたを閉める。 ふ菓子で包んだ卵の様子。ふ菓子が卵の曲面に合わせて、柔軟に形を変形させている。低反発ウレタンの枕やクッションのようで、これが卵を守る秘訣。

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